――さて第5話からは、ムルナイト帝国の七紅天大将軍たちが登場しました。監督は七紅天大将軍たちをどのように描こうとお考えでしたか。
南川 七紅天大将軍はきっと強いんだろうけど、戦闘力を測ることもできないし、見た目もそれぞれ個性的で、ほかのキャラクターにかぶることがない。それでいて、どのキャラクターにも負けないキャラクター性と独特なセリフ回しをしているんです。なるべくその存在感を出せるように、インパクトの強い感じで描いていきました。
今回、七紅天大将軍は基本的に、主人公コマリの敵なんじゃないかと感じさせる登場をします。みんなそれっぽいふるまいをして、怪しい感じで話して、いうならば容疑者のようなポジションで現れるわけです。もしかしたら、裏ではとんでもないことをやっているんじゃないか? いや、やっぱり敵じゃないんじゃないか? というような、企んでいる様で含みを持たせた感じを大事に描いていこうとしています。
――七紅天大将軍のひとりサクナ・メモワールを描くうえで大事にしていたことはどんなことですか。
南川 彼女も最初はわかりやすいキャラクターとして登場するんです。弱気でかわいい感じなのですが、いざストーリーが進んでくると、とんでもなくこじらせている部分が明らかになっていく。しかも、サクナが行動する理由は、予想以上に重いものを背負っている。先のエピソードでは彼女の過去も描かれるんですが、それを踏まえて第5話からもう一度見てもらえると、また彼女の行動が違ってみえるんじゃないかと僕は思っています。普段のふるまいは、過去の出来事を考えてみると、実はこういう意味があったんだって。わかりやすい行動をしているけれど、その行動のひとつひとつには裏の意味がある。厚みのあるキャラクターになったんじゃないかと思います。
――シリーズも中盤戦に突入し、制作現場も佳境なのではないかと思います。現場で活躍しているスタッフ、印象に残るお仕事をされた方がいらっしゃればお名前とともにお仕事をご紹介ください。
南川 もちろん、現場に力を注いでくれている全スタッフの力のおかげですね。みなさん本当に時間をかけて作品に打ち込んでくださっています。中でも、一番頑張ってくださっているのが下谷(智之)さん(キャラクターデザイン、総作画監督(共同))です。スタジオで僕の座席があるんですが、その隣の席に座っていらして、信じられないくらい現場で粘ってたくさんの作業を担当されています。「終わらねえ終わらねえ」って言いながら(笑)。スタジオに長時間入ってくださって、ずっと作業をされているので、演出チームとしても「大丈夫ですか?」と聞きながら、必要なことではあるのでずっと作業をお願いする形ですね。やはり、キャラクターデザイン・総作画監督というポジションは、作画チームのリーダーであるので、本当に頭が下がる思いです。
――下谷さんはキャラクターデザインをご担当されていますが、キャラクターデザイン原案のりいちゅさんのやり取りはいかがでしたか。
南川 僕らはキャラクターデザイン作業を進めるときに、ライトノベルの挿絵やイラストレーターさんが描いた過去の版権イラストを分析して、その特徴だったり、タッチをアニメのキャラクターデザインに落とし込んでいくんですね。同時に、アニメのキャラクターデザインはキャラクターを動かすことを前提にデザイン作業をしないといけないので、原作イラストで描かれている線も取捨選択していく必要がある。今回もそういう作業をしたのですが、実はかなりスムーズに進んだんですよね。
前回もお話しましたが、りいちゅさんのコミカライズとアニメの制作は同時進行だったんです。だから、キャラ表(キャラクターデザイン設定)を作りましょうとなったときには、りいちゅさんのコミカライズが進んでいて、いわゆるライトノベルのイラストから起こすキャラクターデザインよりも、今回はリソース(資料)が多くありました。
あと、下谷さんは近作では「ブルーピリオド」や「食戟のソーマ」といった作品でキャラクターデザインを担当されていて、少年マンガや青年マンガ作品のキャラクターデザインを得意とされている方なんですね。こういったライトノベル作品の目が大きくてかわいらしい系のデザインはあまり経験がなかったと思います。でも、下谷さんはどんな方向性のキャラクターも描ける人なんですよ。りいちゅさんの原作イラストに対しても、一度方向性をつかむと、すんなりとデザイン作業を進めていくことができました。なので、りいちゅさんサイドとのデザインのやり取りは数回で進めることができました。いまでは各話の総作画監督作業で、さらにそのキャラクターをブラッシュアップして本編作業に臨まれている印象ですね。
――南川監督がアニメを作るときに大事にしていることはどんなことですか。
南川 商業アニメの面白いところは集団の力で出来上がっていることなんですよね。アニメ制作会社ごとにいろいろな体制があるんですけど、今回はフリーランスのいろいろな方々がproject No.9のスタジオに集まって作品を作っているんですね。そうなると打ち合わせを重ねて、いろいろなスタッフと意思疎通を図っていくことになるわけですが、やっぱりスタッフそれぞれに原作を解釈して、その人なりのこの作品の魅力を持ち込んでくれるわけです。僕はそのいろいろなアイデアを一番いい形でまとめていくというのが仕事なんですよね。もちろん方向性が違うものがあがってくれば、そこは修正しますが、基本的にはみなさんが作ってくれたものをうまく組み合わせていくことになります。アニメの制作現場自体がたくさんの自律神経で動く、ひとつの人間のようなもので。僕は脳神経として自律神経のある身体を動かしているという感じなんです。みなさんがそれぞれ考えてくださってポテンシャルの高いものを作ってくださるから、全体のクオリティが保たれていくのだと、僕は思っています。
――キャスト陣のみなさんとアフレコをして印象に残っているエピソードはありますか?
南川 先日自分もインタビューしていただいた雑誌でお二人が表紙でしたが、コマリ役の楠木ともりさんと、ヴィル役の鈴代紗弓さんはすごく仲が良いんですよね。今回お二人は原作のプロモーションビデオから続投する前提でプロジェクトが進んでいたので、僕たちもあとから知ったんですけど。ふたりの仲の良さが作品に出ていたら良いなと思いますね。
――いよいよクライマックス。ここからの展開で注目してほしいところがあればお聞かせください。
南川 ここまで来ると、原作をお読みの方はだいたいアニメ版がどこまでやるかが検討つくと思います。原作の挿絵にあったカラーイラストのシーンはアニメにもしっかり入っているので、原作ファンの方は楽しみにしてください。あと、既に発表されているネリアやカルラをはじめ、まだ発表されていない新キャラクターたちもどんどん登場します。いろいろなキャラクターたちがどんな声で、どんな動きをするのかを期待してください。六国大戦編では物語の舞台がさらに広がっていって、新しい国も登場します。そこで出てくる勢力やその土地の風景も見どころになるかと思います。ぜひ、今後も楽しみにしてください。