©小林湖底・SBクリエイティブ/ひきこまり製作委員会

SPECIAL

2023.11.01

南川達馬監督のオフィシャルインタビュー到着!

――原作『ひきこまり吸血姫の悶々』はライトノベルだけでなく、コミカライズも展開されている作品です。こちらをアニメ化するにあたり、どのような方向性を考えたのでしょうか。

南川 ライトノベルのアニメ化では挿絵が、ビジュアルの情報源になるわけで、まだ挿絵で描かれていない部分は、アニメ側で作らなくてはいけなくなるわけです。でもこの作品では、ライトノベルのイラスト部分を担当されている、イラストレーターのりいちゅさんがコミカライズも担当されるということになっていて、りいちゅさんが描いたデザインやイラストが、ビジュアル的にはこの作品の世界になっていると言っていい。ただ、今回はアニメの制作開始とコミカライズ版の執筆開始がほぼ同時期だったんですね。当時、アニメ側はりいちゅさんのコミカライズやデザインが決まるのを待つかたちが良いのか、それとも先にアニメ側で作ってしまうのか、ご相談した記憶があります。最終的には両方のケースがあって、たとえば、アニメは先に美術設定の作業が進んでいたので、コマリの部屋はこちらの設定が先で、それをコミカライズの参考にお渡ししました。お城の中の一部はほかにもアニメ側で先に提案した部分が取り入れられている様ですね。

――おもしろいです。原作小説とコミカライズ版とアニメが三位一体で制作をしていったんですね。

南川 今回は特殊なケースだと思います。もちろん原作側にはチェックをしてもらっていますし、原作とコミカライズ、アニメでうまく連携が取れていたから実現したケースですね。

――作品の舞台はムルナイト帝国になります。吸血鬼たちの帝国をどのような場所として描こうとお考えでしたか。

南川 今回のアニメの序盤では、ムルナイト帝国内でストーリーが進みます。原作をお読みになっていただけばわかると思いますが、この世界には他にもいろいろな文化を持つ国が登場するんですよね。そう考えていくと、ムルナイト帝国もきっとどこかの現実の文明に当てはまるだろうと考えたんです。そこで、ムルナイト帝国はいわゆる西洋の中世文化だろうということになりました。
 そういった方向性が決まると、ムルナイト帝国の街並みや建物の様式が見えてくるし、建物の材質や建物の高さも決まる。でも、魔法の力がある世界ですから、動力は電気じゃないだろうと。たとえば、街灯や建物の灯りは魔法の光の球が光っているんだろうということになります。ほかにも、コマリの執務室に椅子があるんですけど、そこにある椅子の足にキャスターがあるのはおかしい。じゃあ、その椅子の足には不思議な魔法の球が光っていて、それがキャスターの代わりになるんだろうと。そうやってムルナイト帝国の独特な世界観を決めていきました。だから、あの執務室の椅子の足には魔法の玉が光っているという裏設定があるんです。

――この作品は、魔核によって死んでも復活するという独特な世界観です。吸血鬼たちはそこで「エンタメ戦争」を行っている。この世界観をどのように見せていこうとお考えでしたか。

南川 この作品では普通の人間と同じように手足があり、顔があり、人の形をしている吸血鬼たちが出てきます。おそらくこの作品を観る方々は、同じ人間として、吸血鬼たちに感情移入をすると思うんですよね。そうなると、死を簡単に描いてはいけない。死をきちんと説明しないといけないと思ったんです。この作品には吸血鬼以外にも獣人たちがいるんですが、見た目がファンタジーな彼らだとあまり生々しくなりすぎないと思ったので、第一話たちでは獣人を使って魔法をくらって黒焦げになって死んでいく姿を描くことにしました。戦いが終わった後に、死んだ兵士たちが「魔核」の力でよみがえるシークエンスも1カットだけじゃなくて、数カットを積んで見せています。ちょっともの悲しい夕景の中で、死んだ獣人たちがよみがえるところを見せることで、「死んでもよみがえる」この世界の説明を。限られた尺の中で、しっかりと伝えられるように考えて作りましたね。

――第七部隊のヨハンが死ぬシーンは、イメージカットを入れてギャグにしていますね。

南川 そうですね。ヨハンは開始10分で死んでいますよね(笑)。そこは扉に挟まれて死ぬというギャグになっていて、死体にもモザイクをかけてギャグにしていましたけど、大事なことは、しっかりと血が流れて、死んでいるということを伝えることだったんです。モザイクを取ったら、きっとそこには死体があるんだろうなと思わせておくことが大事だなと考えていました。

――本作の主人公であるテラコマリ・ガンデスブラッド(以下、コマリ)の印象をお聞かせください。彼女を描くうえで大事にしていたところはどちらでしたか。

南川 コマリは理想的な主人公なんですよね。まず、思考が優しくて、誰も嫌な思いにさせたくない平和主義で、ブレることがないんです。まあ、ひきこもっているから、あまり人には会わないんですけど。でも、いざ接するときはだいたい丁寧に接する。誰かに悪口を言うことはギャグシーン以外ないんです。そういう根幹がしっかりしていながら、メイドのヴィルに悪態を吐くシーンがあったり、「私は仕事をしたくない」とわがままを言う子供っぽいところがある。そのバランスがとても人間的だなと思いました。コマリを見ていると「わかる、たまには休んで、サボりたくなるよね」と共感できるんです。原作でそういったコマリのふたつの要素をしっかりと描いてくださっているから、アニメで動かすときもその根幹をしっかりと踏まえて、原作からセリフの取捨選択ができました。コマリならきっとこうするだろうとすぐに判断できる。本当に描きやすいキャラクターでした。

――メイドのヴィルヘイズについてはどのように描こうとお考えですか。

南川 ヴィルはコマリとの接点が過去にあるんですよね。第3話で描かれましたけど、昔は今のような破天荒なヴィルではなくて、いじめられっこで弱気だった時期があった。そこはしっかりと尺(時間)をとって描いています。この第3話の過去の回想シーンがあるから、現在のヴィルとのギャップが生まれて、キャラクターとしての深みになったなと思います。

――ヴィルの過去を描くうえで大切にしたポイントは。

南川 コマリはイジメを目にしたときに、ヴィルだから助けたんじゃなくて、誰がイジメられていても助けていたんです。そこは今のコマリのパーソナリティにもつながるところなので、大事に描こうと思っていました。ヴィルを偶然助けたのではなくて、コマリはイジメられている子がいたら助けるんです。ヴィルもセリフで言っていましたけど、「自分じゃなくても、イジメられている人がいたら助けたコマリ」が心の支えになった。そこが大事だなと。ヴィルにとってコマリが救いになったんだと思います。

――コマリが率いることになる、第七部隊のメンバーはどれも個性的です。とくにメラコンシーはラップを披露。派手に動いていましたね。

南川 アニメーションって動かすものと、動かさないものを明確に決めておく必要があるんです。動かすものには動かすだけの意味がある、というのが僕の信条でして。メラコンシーは常にラップをしているから動かさなくちゃいけないという理由も半分あるんですけど、実は物語上で意味があって。残念ながら今回のアニメ化ではそこを描くところまではたどり着かないんですが、原作をお読みいただければきっとわかっていただけると思います。彼にはとんでもないバックボーンがありまして、なぜ彼の名前だけ表記が「メラコンシー」のみなのか、ということにもかかってくるんです。なので、メラコンシーがやたら動いてるのは、原作準拠なんですよ!

――第2話ではコマリもラップしていました。コマリ役の楠木ともりさんが「初めてラップをした」とおっしゃっていました。

南川 コマリがラップをすることになったのは、メラコンシーによる巻き込まれですね(あっさり)。もしかしたら、楠木さんはムチャブリをされて戸惑いもあったんじゃないかと思っています。たしか、同じ組で収録していた男性キャスト陣がサポートしてくれて、収録ができました。

――前半は、ミリセント・ブルーナイトの暗躍が描かれます。ミリセントをどんな人物として描こうとしていましたか。

南川 最初に出てくる、主人公と明確に対立する存在なので、存在感をしっかり出していこうと思っていました。彼女にもしっかりとバックボーンがあって、ただいきなりコマリの前に立ちはだかったわけじゃない。彼女にも人生があって、コマリに干渉する理由がある。そういう人間の深みを出したいと思っていたので、演技の幅がある人にお願いしたかった。演者のチョイスはすごく難しかったですね。映像を作るうえでも、しっかりと長めに尺を取って、その人間性を出すようにしました。セリフも多いキャラクターですが、原作のセリフをなるべく削らないように慎重に作っていきました。

――コマリの烈核解放シーンは前半の見どころのひとつでした。こちらはどのようなところに力を入れて描こうとお考えでしたか。

南川 コマリの烈核解放に関しては、まずコマリの見た目が変わるということが大きいですね。コマリは基本的に戦うことがほとんどないので、主に非戦闘員として描いているんです。ところが烈核解放をすると圧倒的な強さを発揮して、相手を秒で倒してしまう。あまりにも強すぎるので、あっけなく敵を倒してしまい、あっという間に戦いが終わってしまうんですね。その短いシークエンスの中でどれだけ多彩なアクションを見せられるかという、矛盾をしている課題に挑戦していました。速いアクションでも、ゆっくり見せないといけない。その両方を達成するために、ライティングや撮影処理を入れて視聴者のみなさんの心に残るようなビジュアルになるように頑張りました。

――普段のコマリと、烈核解放のコマリのギャップが見どころですね。

南川 コマリの圧倒的なアクション。こんなに動くんだって、見ている人の脳汁がでるくらいのものにしようと一瞬に詰め込んでいます。

――原作とコミカライズ版の魅力を詰め込んだ前半(第1話から第4話)となりましたね。

南川 最初に読んだときから、原作はものすごく面白い内容だと思っていたんです。女の子の主人公のかわいさだけでなく、いろいろなエンタテインメント要素が盛り込まれていて、日常シーンやバトルもある。さらに、陰謀に巻き込まれていくといった話の奥深さもあって。面白いと思ったんですけど、なかなかにボリューミーな作品ですね。

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